シシルドベルマーク

和訳の記録保管用

ミュージカル Rebecca 2.Du Wirst Niemals Eine Lady 補足2

1で書ききれなかった細々とした点を。

 

 

・夫人がマキシムがお茶に誘う場面で、夫人はマキシムがコーヒーを飲む席に自分たちがご一緒すると言い、反対にマキシムは2人がコーヒーを飲むのに自分がご一緒すると言って、お互いに相手を主体に置くことで相手への敬意を示そうとしています。3人でお茶しばくんだからどっちでも一緒じゃんと思ってしまう大雑把な私は決してレディーにはなれない。

また、マキシムは夫人だけではなく「私」も含めたSie beide(「あなた方お二人」)と呼びかけることによって、「私」に対しても夫人と同列の敬意を表しています。原作でも似たような箇所があり、夫人が「私」にウェイターを呼ばせようとするのをさえぎって、マキシムが自分でウェイターを呼び、更に座り心地の良い椅子を「私」に譲って自分は固い椅子に座るので、夫人の知り合い連中から軽んじられるのに慣れていた「私」がマキシムの態度を意外に思う場面があります。

 

・"Gemeinsam werden wir das Beste draus machen"は直訳すると「私たちはその中から最上のものを作り出す」なのですが、前後と併せても意味が分からず、辞書などにも類似の表現が載っていなかったため、「良い関係を築ける」とふんわり訳してしまいました。もしもドイツ語にお詳しい方で意味をご存じの方がいらっしゃいましたら教えていただけるととてもうれしいです。

 

・普通の若い娘なら一目モンテカルロを見るためなら"Augenlicht"=「視力」だって差し出すだろうと夫人が言うのに答えて、マキシムはそれでは何の助けにもならない、つまり視力を差し出しては見ることは叶わないだろう、という皮肉を返します。同様のやり取りが原作でもあるのですが、ミュージカル版の夫人が皮肉に気が付いてたじろぐのに比べて、原作ではなんとこの皮肉も夫人には通用しません。原作で通じるのはあなたが荷造りを手伝ってくれるんですか?の皮肉だけです。原作の夫人の方が強い。

 

・"Niveau”はそのまま訳すと「水準、レベル」なのですが、日本版の「す~む~せか~いが~ち~が~う!!」が意味的にもぴったりですし、なにより初演の寿さんのどすのきいた歌い方が頭から離れないのでそのまま使いました。

レベッカはソロの大曲以外にも面白い曲がたくさんあるので、ハイライト版ではなく全幕収録版でCDが欲しかった・・・。

 

・夫人が「私」にいかにレディの素質が足りていないか最後にまくし立てるパートで、確証はないのですがちょっとあれ?と思うところがあったので書きます。

ドイツ語は英語やフランス語などと派生元が同じで、また地理的に地続きということもあり、英語やフランス語から輸入されて定着した単語が多いのですが、ここで「私」に足りない素養として夫人が挙げている"Nonchalance","Contenance","Elegance"の中で、Contenanceはフランスが原語でドイツ語も同じつづり、Nonchalanceは仏独英3つで同じつづりなのですが、Eleganceはフランス語と英語はこのままなのですがドイツ語では形が変わってEleganzとなります。この3つの単語がすべて-ceの形になるのはフランス語しかないので、韻を踏むために揃えたいというのもあるかもしれませんが、居る場所がモンテカルロなので夫人が気取ってフランス語の単語を使っているという可能性も高いかなと思います。(なお、このつづりはドイツ語版初演のCDのブックレットを参照しているので、それが間違っていないという前提に立っています。このブックレット、多くはないんですが時々どう読んでも誤記だろうこれはという箇所があるんですよね・・・。)

 

・閑話:ミュージカル版には一文字も出てきていない単語なんですが、調べてへぇ~と思ったのでついでに書いておきます。旧訳版のモンテカルロのシーンで何度か出てくる「タクゾル」と「イーノス」、注釈もついていないので何なのかさっぱりわからないまま読んでいたのですが、ググったら英語の質問サイトにeffervescent antacid=発泡性の胃腸薬だと書いてありました。

TaxolはWIkipediaによると化学療法に用いられる薬の成分らしく1966年に発見、1990年に商標登録されている(全然詳しくないので変なことを書いているかもしれません、すみません)とのことなのでレベッカに出てくるTaxolはもう胃腸薬としては残っていないらしく、一方イーノス(英語原作だとEno's)はAmazon UKで調べるとEnoの商品がいくつも出てくるのでまだ残っているようです。あまり詳しく調べていないので本当にこのメーカーのことを言っているのか確かではないのですが、もしかしたらマキシム・ド・ウィンターお気に入り?の胃もたれの薬ということで機会があればぜひ。

新訳では注釈がついていたか気になるのですが、本が家のどこかにはあるはずなのに見つけられないという状況なので、もし確認出来たらこっそり書き足しておきます。

(実は個人的には、夫人だけではなくマキシムも、原作を何度も読み返すうちにこいつなかなか嫌な奴だなと思うようになったミュージカルにはない場面がいくつかあるのですが、このタクゾルとイーノスが話題に上がるプロポーズの場面もそのうちの一つです。超不定期更新なのでそこまで行けるかわかりませんが、その場面まで行くことができたらまた比較して書きたいと思います。)

 

・閑話その2:ミュージカルと関係のない話題を書いてしまったのでさらにどうでもいいメモ書きをついでに書くのですが、マキシムの車に積まれていて流れで「私」が貰うことになった詩集の中の一篇が原作には出てきます(作中では誰の詩かは出てこないのですが、フランシス・トンプソンという方の詩らしいです。)

外国語が不得意なうえに詩は輪をかけて分からないのでほぼ確実に間違った解釈なのですが、この詩の中の"I sped and shot"(旧訳では「ましぐらに、ころげまろびつ」(上巻p64)と訳されており、そのままの意味は、急いで駆けに駆けて、というようなことらしいです)が

Up vistaed slopes I sped
And shot, precipited

という風にAnd shotが目立つような改行をされていて、目に飛び込んできたときにレベッカの死因を連想しました。ただ『レベッカ』の中だけではなくもともとそのような表記のようで、私の連想は多分想定されていない効果なのだと思います。